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すれ違い 08

ผู้เขียน: あさの紅茶
last update ปรับปรุงล่าสุด: 2025-04-28 04:47:05

祝賀会は一部マスコミの入場も許可されており、主役の二人が壇上に上がることになっていた。

メイサは自然と静の腕に手をかける。ぴったりと寄り添い、離れるつもりはないようだ。静は振り払いたいのを我慢しながら、渋々そのまま壇上までエスコートしていった。

わあっと歓声が上がり、「やっぱりお似合いよね」などという声が上がる。まわりに囃し立てられ気分を良くしたメイサは、ますます静に体をくっつける。

「ねえ、私たちもこのまま恋人になりましょう。二人ならきっと素敵な音楽が奏でられるわ」

「俺には恋人がいるって言ってるだろ」

「何言ってるのよ。これから海外公演が増えるのよ。日本に帰らないのに待っててくれるわけないじゃない。それにあの子、身を引くって私に言ったのよ」

メイサの発言に静の思考が一旦止まる。春花とメイサに接点などあっただろうか。

「……どういうことだ? 春花に会ったのか?」

「ええ。静の夢を邪魔しないでねって忠告してあげたの。おかげで海外公演も大成功よ。感謝しなくちゃね」

「は? ふざけるな。俺はもうメイサと弾く気はない」

「何言ってるの? これから私たちはもっと有名になっていくのよ。とても栄誉なことだわ」

「栄誉なんていらない。俺はそんなもの求めていない」

「じゃあどうして海外に来たの? 有名になるためでしょ? 私たちなら世界中に名を轟かせることができる。それの何が不満なの?」

「不満に決まってる!」

静は吐き捨てると、そのままメイサの元を去った。祝賀会もどうでもよくなった。
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